Masukお姉ちゃんの様子を伺い、私は部屋のドアを閉めると階下に降りた。リビングルームには亮平が頭を押さえてソファの上に座っている。「亮平」そっと名前を呼ぶと、亮平は素早く頭を上げて私を見た。「どうだ……? 忍さんの様子は」「うん……始めのうちは大分興奮して泣き叫んでいたけど今はもう泣き疲れて眠ってる。多分一睡もしていないんだと思う……」そして私も亮平の隣にすわり、ため息をついた。 それは突然の出来事だった。姉と進さんは2人でデートをしていた。交差点で信号待ちをしていて、信号が青になったので渡って歩いていたら、そこへ1台の車が猛スピードで突っ込んできた。進さんは咄嗟に姉を突き飛ばし……車に轢かれてしまった。そしてあろうことかその車はそのまま走り去ってしまった。ひき逃げだったのだ。辺りは騒然となった。取り乱した姉を周囲にいた人たちが何とか落ち着かせ、すぐに救急車が呼ばれた。進さんは救急車で運ばれ、突き飛ばされたことで怪我をした姉も同じ病院に運ばれた。車に轢かれた進さんは5時間にも及ぶ手術を受けたものの、結局助からなかった。一方の姉は打撲の治療を受けた後、進さんの両親と手術が終わるのをずっと待っていたが、手術を終えた医師から進さんが帰らぬ人となったことにショックを受け、気を失ってしまい……私とは一切連絡が途絶えてしまっていたらしい。そしてやっと目を覚ました姉は進さんの両親に言われ、帰宅してきたのだった。「信じられないよ……。進さんが死んでしまったなんて……」何て可愛そうなお姉ちゃん。お父さんもお母さんも死んでしまって苦労して……私の面倒を見てくれて、進さんという恋人が出来てようやく今年結婚して幸せになるはずだったのに……。「俺が悪いんだ……」亮平が口を開いた。「え? 何が悪いの……?」一体亮平は何を言っているのだろう。「俺が……忍さんのことを好きだったから……忍さんの恋人を妬んで……!」亮平が頭を抱えた。「ちょっと……亮平、落ち着いて」亮平の肩に手を置いた。「そうだ……俺は願ったこともある。あいつなんかいなくなってしまえばいいのにって……。俺がそんなことを願ったから、あの人は……!」「亮平!」パンッ!!私は亮平の頬を叩いた。「鈴音……?」亮平は呆然と私の顔を見た。「自分のせい? 進さんがいなくなってしまえばいいのにって願
亮平のくれた痛み止めのお陰で片頭痛は収まり、何とか1日の業務をこなすことが出来た。そして今日の私は残業当番の日……。「加藤さん。今日は残業だけど大丈夫?」早番で帰る井上君が心配そうに帰り際声をかけてくれた。「う~ん……どうかなあ……。でもほら、痴漢は逮捕された訳だし? 多分大丈夫……かなあ? そうだ! 明日は仕事が休みだから自転車買いに行こうかな?」そうだ、自転車を買えば良かったんだ。たかだか駅まで10分程度だったから自転車のことを考えて居なかった。徒歩よりはずっと安全に帰れそうな気がする。「それはいいね。自転車ならある気より安心だよ。それじゃ本当に帰りは気を付けた方がいいからね?」井上君は何故か必要以上に心配してくれる。その優しさが亮平にもあったらなあ……。「それじゃあお疲れさまでした」井上君は皆に挨拶して帰って行った。さて、私も後ひと踏ん張りしなくちゃ。****「うぅ……遅くなっちゃたな……」今の時刻は21時。これから電車に乗って地元の駅に着くのは21時30頃。そこから歩きか……。私は溜息をついた。それにしても……今私が一番気になっているのは昨日から姉と連絡が取れなくなっていること。一体何があったんだろう。こんな丸1日たっても連絡が取れないなんて今迄無かったのに。何だろう? 何だがすごく嫌な予感がしてならない。そのとき。トゥルルルル……!突然スマホが鳴った。「うわあっ!」手にしていたスマホが鳴り響き、びっくりして思わずスマホを落しそうになってしまった。着信相手を見ると亮平からである。「亮平……? 一体どうしたんだろう……?」スマホをタップすると電話に出た。「はい、もしもし」『鈴音か? 今何処だ?』「何処って……」 私はこれから電車に乗って帰ることを伝えた。『よし、駅で待ってるからな。だから勝手に歩いて帰ったりするなよ?』「うん! ありがとう! 大好きだよ!」どさくさに紛れて言ってみた。『ば〜か、気持ち悪いこと言うなよ』変な返しをされてしまった。ちぇ……やっぱり本気で受け取ってくれなかったか。だから私も胡麻化すことにした。「アハハハ……そうだよね。ちょっと気持ち悪かったかもね。でもありがとう」それだけ言うと私は電話を切って、電車に乗った――****「おーい、鈴音!」車のドアを開けて身を乗り出し
「あ~……頭痛い……」ガンガン痛む頭を押さえつつ、シリアルを食べていた私は隣のリビングでソファに寝っ転がりながらスマホをいじっている亮平を見た。「ねえ、亮平」「何だよ」亮平はスマホから目をそらさずに返事をする。全く……亮平は私には塩対応ばかり取るんだから。でも、そんなこと一々気にしていたらこっちの身が持たない。よし、気にしない気にしない……。「朝ご飯はどうしたの?」「いや、まだ食っていない」「シリアルで良ければ食べる?」「いらん。やっぱり日本人は米と味噌汁だろう?」「え? じゃあ何でまだここにいるの? もう家に帰ったら?」「……」何故か亮平は返事をしない。ははあん……なるほど……。「そっか、お姉ちゃんにお帰りを言いたいんだね?」すると亮平はガバッとソファから身を起こした。「ばっ! 馬鹿! 何言ってるんだ! ガキじゃあるまいし!」亮平の大声が頭に響く。「ちょっとぉ~頭痛いんだから大声出さないでよ……」ズキズキする頭を押さえ、シリアルにかけていた牛乳を飲み干した。「二日酔いだろう? 自業自得じゃ無いのか? 大して強くないくせにガバガバ飲むから……」「そんなこと無いってば。でも元はと言えば田代さんのせいじゃないの? 睡眠薬をアルコールに入れた物を飲まされたんでしょう?」「フム……それは確かに要因の一つかもしれない……」腕組みをして妙に納得する亮平。「そう? 分かったなら……今日私の代わりに仕事してきてよ」「おい! 無理言うなっ!」「だから叫ばないでってば……。そう言いたくなる程頭痛が辛いんだもの……」頭を両手で抱える。「おい鈴音。お前……そんなに辛いのか?痛 み止めとかはあるのか?」流石に心配してくれるのか、亮平が立ち上ると私の傍へやって来た。「痛み止め……無い。切らしちゃったんだっけ……」ポツリと言う。そんな私の様子を少しだけ亮平は見ていたが、突然無言で玄関へ向かって出て行ってしまった。「……帰ったのかな? 何よ。挨拶位して帰ればいいのに……」食べ終えた食器を流しに運び、後片付けをしようとしている時に玄関の閉まる音が聞こえた。「ん? 誰だろう?」するとキッチンに亮平が現れた。「あれ? 帰ったんじゃなかったの?」「違う、痛み止めを取りに行って来たんだよ」そう言うと亮平は錠剤を2つテーブルの上に置いて
ピピピピピ……!う~ん……煩いな目覚ましの音だ……。ベッドから右手を伸ばし、手を動かして目覚まし時計を探していると四角い手のひらサイズの何かが触れた。よし、これだ。目を閉じたままバチンと目覚まし時計を止めて、布団を被りなおし……。「あーっ!! 今日も仕事だったんだ!」ガバッと飛び起きた途端、ズキリと頭が痛んだ。「う……あ、頭が痛い……。あれ? そう言えば私いつの間にかベッドで寝ているけど、どうやって家に帰ってきたんだっけ……?」ガンガン痛む頭を押さえて、ベッドから降りるとかろうじて部屋着には着替えていたようだ。だけど……。自分の身体の匂いをスンスンと嗅いで、顔をしかめた。「う……お酒臭い……」チラリと目覚まし時計と見ると時刻は6:10。今からすぐにシャワーを浴びて、髪と身体を洗って、濡れた髪をタオルで巻いて……。牛乳にシリアルならすぐに朝食を食べ終える事が出来る! 頭の中でざっとシュミレーションを立てた私は箪笥から下着を引っ張り出すと急いでお風呂場へと向かった。**** シャワーでお湯を頭からかぶり、身体を洗いながら髪も洗う。泡をよーく洗い流した後はバスタオルで身体を拭いて頭にタオルを巻き付けると下着を身に着けた。そしてお風呂場から出た私は、そこで亮平と遭遇した。「あ……」亮平は下着姿の私を上から下までじっくり見渡し……。「な、何で亮平がここにいるのよ~っ!!」私は絶叫していた――****「つまり、亮平はお姉ちゃんに私のことを頼まれて、ここにいるってことね?」夏物のカジュアルスーツに身を包んだ私は器に開けたシリアルに牛乳を注ぎながら亮平を見た。「あ、ああ……そうだ。忍さん彼氏と泊りで家に帰れないから、代わりにお前の様子を見て貰いたいって……頼まれて……」明らかに元気なく答える亮平。う~ん…思いを寄せる女性からの、彼氏とお泊りデートの報告を受けるのは……確かに痛い話かもしれない。だけど……。私はチラリと亮平を見た。私だって……ずっと亮平のこと好きなのに……。その時。「おい、鈴音。お前、朝飯それだけで行くつもりか?」「うん……駄目かな?」「いや、駄目って言うか……あっ! それよりも鈴音! お前、昨夜はよくも何回も人の髪の毛抜いてくれたな!? ものすごーく痛かったぞ!」「え? 髪の毛? 抜いた? 何回も?」
店を出た所で、私はフラフラとお店の壁に寄りかかってしまった。何だか足元はおぼつかないし、頭はグルグル回っているような感覚だ。「ほら、しっかりしろ。家に帰るぞ」亮平に左腕を掴まれて、立たされた。そのままふらりと亮平の胸に倒れ込んでしまった。「全く……酒が弱いくせに、無理に飲もうとするから……」頭の上でブツブツと亮平の文句が聞こえてくる。それを聞いた私は何故か少しイラッとして、言い返した。「何よぉ~元はと言えば亮平が悪いんでしょ~?」「何で俺が悪いんだよ。ほら、歩くぞ」亮平に肩を支えられ、もたれかかる体勢で歩きながら文句を言った。「亮平が……場の雰囲気を壊すような……態度を取るからじゃない……」「俺はな、常に自分の気持ちに正直に生きたいんだよ。今夜の合コンだって無理矢理連れて来られてんだぞ? 俺はこんな所来たくなかったのにあいつ等が……」「だけど~来ちゃったんだから……観念して少しは盛り上げようって気にはなれないの~?」私はずいっと亮平の前に顔を付き出した。「おい、鈴音……お前、今日は酔い過ぎだ。……おかしいな……? いつもならこんなには……。まさか……」亮平が先程から何やらブツブツ呟いている。「何さっきから……ブツブツ言ってるのよ……」駄目だ、頭が回って真っすぐ歩けない。「おい! 鈴音、しっかり歩けって!」亮平に叱責されるが……無理。「くそっ……! 全く、これじゃ電車で帰るのは無理だ。仕方ない……タクシーで帰るか……」亮平は私を支えたまま、ぐるりと向きを変えて何処かへ歩いてゆく。「ねえ……何処行くのよ……?」「タクシー乗り場に行くんだよ」そこでガクンと私は崩れ落ちてしまった。あれ……変だな……足腰立てないや……。「おい! 鈴音! 立てってば!」「らめ(駄目)……立てない……」「あーっ! もうっ!」亮平が喚いている……次の瞬間、フワリと身体が浮いた。え? 何……? 気付けば亮平は私を背中におぶって歩いていた。「いいか……鈴音……。絶っ対に吐くなよ!? 吐いたら承知しないからな?」「分かってるってば~大丈夫……吐かないから……。うっ!」「おい! おまえなあ……!」亮平の焦る声が聞こえる。「アハハハ……。冗談だってばあ~」フフフ……楽しいなあ……。こんな風に2人で話をするのは久しぶりな気がする。「お
「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」私達6人は男女お互い向かい合って座り、全員生ビールで乾杯をした。「いや~それにしても驚きだな、まさか岡本と……えっと……?」幹事の田代さんが私と亮平を交互に見つめる。岡本と言いうのは、亮平のことだ。「加藤です。加藤鈴音です」「そうそう、加藤さんが幼馴染だったとはな~しかも、こんな可愛い女の子なんだから」田代さんはお酒を飲み始めたばかりなのに妙な事を言う。「いえいえ。別に可愛くありませんって、普通ですから」手を振りながら愛想笑いをするが、私の真向いに座る亮平は無言でビールを飲んでいる。その姿はつまらなそうで、いかにも無理矢理連れて来られた感が滲み出ている。「ところで、君達は全員旅行会社に勤めていたんだよね?」もう1人の参加者、確か名前は……山崎さんが私たちを見渡した。「はい、私達全員『ツアージャパン』の新入社員です。確か皆さんは銀行員でしたよね?」萌ちゃんは目をキラキラさせている。実は萌ちゃんは今日の合コンメンバーがエリート銀行員だと聞いて、気合を入れてこの合コンに参加してきたのだが……肝心の亮平はずっと仏頂面をしている為、いまいち雰囲気が盛り上がらない。よし、かくなる上は……。「はーい! 皆さん! どんどん飲みましょうよ~。ここはアルコールフリーのお店なんですから飲まなくちゃ損ですよ!」私は皆に適当にお酒を注いで回る。「おお! 流石は気配りの鈴音!」女性幹事でありながら、酒豪でしょっぱなから生ビールを1本空けてしまった真理ちゃんが手を叩く。「鈴音ちゃん、私にはグレープフルーツサワー頼んで」「了解!」萌ちゃんのリクエストに応えて手元のタブレットで注文する。「他に何か頼む人いませんか~」私の掛け声に、皆次々とオーダーするけど何故か亮平だけは注文しない。「あれ? 亮平は注文しないの~?」「ああ、俺はいい。皆で勝手にやってくれ。俺は別にここに来たくて来たわけじゃないんだから」亮平はグイッとビールを飲む。「「「「「……」」」」」一気に場が凍り付く。まずい……このままでは……!「お、おい。岡本……」田代さんがオロオロしている。かくなる上は……。「はーい! 皆様ご注目!」私は大声をあげた。「うわっ! びっくりした!」真理ちゃんが慌てた声をあげる。「私が皆様の為にマジックを







